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ゴダールを撃て!


開場の30分前から劇場の前に整理券を求めるお客様の長い列ができた蓮實重彦氏と青山真治監督のトーク付き『愛の世紀』の上映。「ゴダールの悪口でいきますか」と始まった対談は、長年ゴダール映画とともにあった両氏ならではの、刺激に満ちた、ユニークなゴダール・トークとなりました。



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私を泣かしたからにはゴダールを許さない


司会 本日は『愛の世紀』アンコール上映にお越しいただき、ありがとうございます。これから『アワーミュージック』を観ていただける方もいらっしゃると思いますが、今から今日のゲストをお迎えしたいと思います。蓮實重彦さんと青山真治監督です。この2本の映画の間に二人のお話が聞けるという特別な機会を設けさせていただきました。宜しくお願いいたします。

青山 青山でございます。どうも。

蓮實 蓮實でございます。今日こうして青山さんとゴダールの悪口を言いあえるのは非常に嬉しく思っております。

青山 悪口でいきますね?

蓮實 はい。

青山 悪口でいきましょう(笑)。しかし、いま『愛の世紀』の最後の音楽を聞いていて、この映画を最初に見たときに泣かされてしまったんですね。自分が映画作家だからなのかもしれませんが、この最後には泣かされました。世の中には内容によって泣かされたから映画的興奮なしでも許すという映画が存在し、また同時に映画的興奮だけで内容については許せないというものも存在するんですが、僕にとってゴダールはしばしば後者だったわけです。ところがこの映画ではとうとう内容によって泣かされてしまったわけです。そんなわけで、この作品を前に悪口というのは簡単には言いづらいんですけど。

蓮實 なおかつ悪口を言わなければいけないというのが我々のスタンスであってですね。

青山 そうですね。

蓮實 私も『愛の世紀』は、途中の黒白画面の画商が出てくるあたりから滂沱の涙なんですね。

青山 はい、はい。

蓮實 『愛の世紀』は、実はあまり世界各地でも正確に受け止められていないところがある映画です。私一人が唯一この映画を理解したと主張する気は全くないのですが、しかし、あのローゼンタールなるじいさんがでてきて、あのエドガーという若者に何かを作らせてやりたいなどということをどうも本気で考えており、しかも、あの青年のお母さんに「実は私は惚れていた」などということを言い始めたりすると、もうダメで滂沱の涙なんです。だから、私を泣かしたからにはゴダールは許さないと。

青山 そういう方向に行きますか。なるほど。しかし、となるとゴダールを許さない我々としてはどういう具合に行動するべきなんでしょうね。

蓮實 やはり彼の映画を何度も観てやる以外にない。

青山 それがやはり彼にとって罰になるわけですね。

蓮實 やっぱり、日本でフランス以上にたくさんの観客を動員するしかない。それが、唯一の彼に対する罰だと。

青山 なるほど。彼は常に孤立しよう、しようとしているわけですよね。どんな場に身をおいても必ず孤立する方向へ積極的に自分を持っていこうとする、一種の、何でしょう、……裏返しというか、マゾヒズムなのか。

蓮實 贅沢ですよ。

青山 贅沢なんですかね。

蓮實 ブルジョワジーの贅沢以外のなにものでもないと思います。

青山 孤独であることが贅沢となることが、彼にとって今必要なんですかね。ずっとそうなんですかね、あの人は。

蓮實 それが彼の唯一の自己同一性の主張だと捉えていたと思います。彼は最近、時々「私には仲間はいない」とかなんとか言いますけれど、いれば彼は排除すると思います。

青山 常にそれをやってきたわけですよね。

蓮實 その点、私は、彼はやはりこの世界には生かしがたい存在だという気持ちを非常に強く持っておりまして、そのためには観てやらなければいけないと、これもいささかマゾヒズム的な…

青山 そうですね。


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蓮實 重彦
(はすみ・しげひこ)

1936年、東京に生れる。映画評論家、元東京大学総長。'85年から'88年まで季刊映画雑誌「リュミエール」の編集長を務める。
著書に、『映画の神話学』、『映像の詩学』(ともにちくま学芸文庫)、『監督 小津安二郎<増補決定版>』(筑摩書房)、『映画への不実なる誘い―国籍・演出・歴史』(NTT出版)、共著に『小津安二郎物語』〈厚田雄春と、筑摩書房)、『成瀬巳喜男の設計』(中古智と、筑摩書房)、共訳書に『ヒッチコック/トリュフォー 映画術』(山田宏一と、晶文社)などがある。最新刊『ゴダール革命』(筑摩書房「リュミエール叢書 37」を本年9月に上梓。

青山 真治
(あおやま・しんじ)

1964年生まれ。映画監督。
立教大学在学中に8ミリ映画の製作を始め、卒業後映画界入り。助監督、批評家を経て、『Helpless』で劇場映画デビューを果たす。『EUREKA(ユリイカ)』は第53回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をダブル受賞し、その後に発表した同名の小説で第18回三島由紀夫賞受賞した。
最新作『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』が2006年公開。